誕生から100年と少ししか経っていないバスケットボールというスポーツは、毎年のように新たな戦略が生み出され、流行のスタイルというのは、年々変化していきます。
その中でも2015年あたりから顕著になってきた世界的なバスケットボールの流行スタイルが、「3ポイントシュートの多用化」です。
NBAでもヒューストン・ロケッツに代表されるように、シーズンを通して、2ポイントよりも3ポイントのシュートの数(3PA)の方が多かったという事例も出てきています。
そこで今回は、現代のバスケットボールの主流である、3Pを多用する戦略が本当に効率的なものなのかどうかを各選手のスタッツやバスケの歴史などから紐解いていきたいと思います。
そもそものシュートの歴史
ではまず、3Pを含む、バスケットボールのシュートの歴史について少し見ていきたいと思います。
ゴール下のみだった時代
バスケットボールが誕生したタイミングでは、レイアップやフックシュート、ゴール下で押し込むようなシュートが主流でした。というのも、そこまで技術の確立がされていなかったため、ゴールにできるだけ近いところでシュートをすることが効率的だったのです。
また、バスケットボール初期の頃は、ダンク=邪道と解釈されていた時代もあり、常にゴールの下から上にボールを投げることがメインであり、如実に身長の高さがバスケットボールの有利不利に関わっていました。
ジャンプシュートの革命
ゴール下をビッグマンが支配し、大男たちがバスケを牛耳っていた時代に、ジャンプシュートの技術を磨きゴール下以外の場所(現代でいうミドルレンジ)から得点を量産するガードやフォワードの選手が現れました。
これにより、センター以外の選手が得点する方法が確立されていき、それに伴ってディフェンスもゴールから少し離れたところもプレッシャーがかけなければならなくなりました。
3Pの誕生
詳しくはこちらの記事で記載しましたが、ビッグマンもジャンプシュートを放つようになり、ディフェンスも現在でいうミドルレンジ付近のプレッシャーを強めたことから、小柄な選手はさらに遠くからシュートを放つことで得点することになり、3Pシュートのルールが誕生しました。
高確率シューターの誕生
ジャンプシュートの誕生によって、ミドルレンジから得点を量産できる選手が誕生したことと同じく、3ポイントのルールが誕生してしばらくすると、他の選手よりも確率を高く3Pシュートを決められる選手が誕生しました。
特にガードの選手は、身長や高さではセンター陣には敵わないため、外角からのシュートを磨くことで得点力を向上させていき、ガードのポジションのプレイヤーでスター選手と呼ばれる選手たちも現れ出しました。
また、パスを受ける、もしくはリバウンドをとってシュートを決めることがメインのインサイドプレイヤーは、自分たちでシュートのタイミングを作り出すことは難しかったのですが、ガード陣はボールを保持する時間が長く、その選手たちがシュートのタイミングを作り出せるようになったことで、「自分のタイミング」でシュートを放てることができるようになったのも、ガードの選手のシュート確率の向上に繋がりました。
2Pと3Pの得点効率
ではここからが本題で、2Pシュートと3Pシュートの確率について、NBAの有名選手を比較してみていきます。
2Pシュートの確率が高い選手
2Pシュートの確率(FG%)の高い選手たちは、主にゴールの近くで活躍するセンタープレイヤーが多くを占めています。
- ウィルト・チェンバレン 54.0%
- カリーム・アブドゥル=ジャバー 55.9%
- カール・マローン 51.6%
- シャキール・オニール 58.2%
- ヤオ・ミン 52.4%
- アキーム・オラジュワン 51.2%
- ドワイト・ハワード 58.6%
- デアンドレ・ジョーダン 66.9%
NBAの歴史でも有数のセンターたちのFG%をみてみると、ほとんど3Pシュートを放たない選手でありながら、FG%を高く見積もっても55%〜60%の間に収まることがわかります。
※ちなみに現役ではありますがデアンドレ・ジョーダンが通算FG%の数字が歴代トップであり、60%を超えている唯一の選手です。
3Pシュートの確立が高い選手
3Pシュートの確率(3P%)の高い選手たちは、やはり「シューター」と呼ばれる選手たちが揃っています。
- レイ・アレン 40.0%
- レジー・ミラー 39.8%
- カイル・コーバー 42.9%
- ステフィン・カリー 43.5%
- スティーブ・カー 45.4%
- J・J・レディック 41.3%
- クレイ・トンプソン 41.9%
- スティーブ・ナッシュ 42.8%
このように、優秀なシューターと呼ばれる選手たちは、40%を超える確率で3Pシュートを沈められることがわかります。
2Pと3Pの得点効率の比較
ここまで2Pと3Pの確率の高い選手を見てきましたが、互いに同じ回数の攻撃をした場合の得点を比較することで得点効率が見えてきます。ここではわかりやすいように、FG% = 55%,3P% = 40%で比較してみます。
すると、
10回攻撃 | 50回攻撃 | 100回攻撃 | |
---|---|---|---|
2Pのみ | 11点 | 55点 | 110点 |
3Pのみ | 12点 | 60点 | 120点 |
こうやって比較するとわかりますが、ゴール下を主戦場としているセンターの中でも高確率の選手に攻撃させるよりも、確率の高いシューターに3Pシュートを打たせた方が、得点効率が高いということがわかります。
実際には、3P%は優秀なシューターはもっと高いため、もう少し差が出ます。
3P多用戦略で勝てるチームと勝てないチーム
先述したように、優秀なシューターがいた場合にはその選手に3Pを多用(乱発)させた方が得点効率が高いことはわかりましたが、とは言っても3P多用戦略のトレンドの中で、常に勝てるチームとそうでないチームがいます。
そこで、この戦略が採用される理由と3P多用戦略で勝てるチームとそうでないチームの違いをみていきます。
3P多用戦略が採用される理由
3Pシュートを多用する戦略が取られる最大の理由は、「得点効率を向上させること」です。
先述したように、3P%40%超えのシューターがいれば、3Pを積極的に放った方が得点が多くなり、勝ちに繋がりやすくなります。また、鶏と卵の関係に近くなってしまいますが、チームのサイズ不足でインサイド勝負ができないために、多用するということもあります。
3P多用戦略で勝てるチーム
現在はほぼ解体状態になってしまいましたが、3P多用戦略で世界を席巻したチームと言えば、ゴールデンステイト・ウォリアーズでしょう。
ウォリアーズはこの3P多用戦略で勝ちきり、NBA連覇やシーズン最多記録樹立など、世界のバスケを席巻しました。
彼らが勝ちきれた理由は2つの理由が挙げられます。
- 高確率シューターを多数揃えた
- 3Pに拘らなかった
ウォリアーズは、ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ケビン・デュラントといった、リーグでも確率の高い3Pを放てる選手を複数揃えていたため、相手ディフェンスがまとを絞りきれませんでした。
また、あまり知られていませんが、当時のウォリアーズは2Pシュートの本数の方が多く、3Pではなく得点効率を向上させることをメインに考えており、スクリーンとランによってフリーを作り、ゴール近くでのレイアップやダンクが多かったのです。それに加えて高確率の3Pシュートが放てたため、勝ちきれたと言えます。
3P多用戦略で勝てないチーム
3P多用戦略で有名なもう一つのチームとしては、ヒューストン・ロケッツが挙げられます。
ウォリアーズと違うのは、多用戦略をとりながらも、結局勝ちきれなかったチームとされている点でしょう。
ロケッツが勝ちきれなかった理由としては、次の点が挙げられます。
- 高確率シューターを揃えられなかった
- 3Pシュートにこだわりすぎた
ジェームズ・ハーデン、クリス・ポール、エリック・ゴードン、PJ・タッカーと比較的3Pシュートが得意な選手を揃えてはいましたが、実はどの選手も通算での3P%は40%を超えておらず、ウォリアーズの選手たちと比べると、効率が悪かったのです。
また、2Pシュートよりも3Pシュートの数の方が多かったチームであり、ウォリアーズが得点効率を重視して勝っていたのに対し、ロケッツはウォリアーズ以下の3P%であったにも関わらず、3Pを乱発していたため、全体的な得点効率が劣っていたのです。
最後に
ここまで3Pシュート多用戦略について一通り見てきました。
この戦略が世界を席巻した理由は、
- 高確率シューターが複数人いたこと
- 3Pシュートにこだわりすぎなかったこと
であって、3Pを乱発すること自体が勝利に繋がるわけではありません。
どんな選手でも単純なシュートの確率は、ゴールに近ければ近いほど高いため、優秀なシューターがそこまで多く揃えられない場合には、あまり3Pを多用する戦略は有効ではないと言えるかもしれません。
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