バスケットボールというスポーツにおいて、「身長」は非常に大きな武器となります。
そんなスポーツの歴史の中で、長い時間中心となってきたのが「ビッグマン」と呼ばれる選手の存在です。
しかし、そもそも「ビッグマン」とはなんなのか?という定義の話や、ビッグマンがどう変わってきたのか?という変遷はあまり話をされません。
そこでこのページでは、ビッグマンの定義についての話やビッグマンの選手としての能力値やプレイスタイルの変遷についてご紹介していきます。
そもそもビッグマンとは?
バスケットボールを扱うメディアにおいて「ビッグマン」という言葉がよく使われます。
そもそも「ビッグマン」とはどんな人のことをいうのか?といえば、単純に「大きな選手」のことを指します。
ただし、どこからが明確な「ビッグマン」なのかは定義されていることはなく、大まかに平均より大きな選手のことを指していることやPFやCといったインサイドプレイヤーを指すことが多いです。大体の境目は以下です。
明確な定義はありませんが、大体こちらの基準に該当する選手が「ビッグマン」と呼ばれます。
7フッターとの違い
特にNBAや国際大会(ワールドカップ)などを扱うメディアでは、ビッグマンと同じような使い方がされる言葉として「7フッター(セブンフッター)」があります。
ビッグマンと7フッターの違いは何かというと、明確な定義があることです。7フッターは「7フィート」の身長がある選手のことを指しています。1フィートが「30.48cm」になるため、7フッターとは「約213cm」の身長があるということを意味します。
そのため、ビッグマンの中でもさらに身長の大きな人たちという括りで「7フッター」という言葉使われているという認識をすると良いでしょう。
バスケットボールにおけるビッグマンの歴史
ビッグマンという定義が比較的曖昧なことはここまでご紹介してきた通りですが、バスケットボールの歴史が長らく「ビッグマンの歴史」であったということも事実です。
そこで、バスケットボールを支配してきたビッグマンたちの役割や影響の歴史について見ていきます。
1940〜60年代:圧倒的にビッグマンが制圧する時代
バスケットボール創世記は、まだ3ポイントもなく、ショットクロック(24秒ルール)すら存在しない時代もありました。
その時代においてバスケットボールでは、「身長こそ正義」といえるような、強大な支配力を持ったセンタープレイヤーたちが時代を支配していきました。
完全にバスケットボールは「大きなセンタープレイヤーたちのもの」と言える時代です。この時代に活躍した主な選手たちを何人かご紹介します。
ジョージ・マイカン
- 身長:208cm
- ポジション:センター
バスケットボールのプロリーグ創世記に大活躍したセンター。身長が185cm前後の選手が中心だった当時において、異常なほどの支配力を持った白人選手です。
あまりにも強力な支配力を持っていたセンターであったため、彼の練習方法(マイカンドリル)や今にも残る数多くのルールが制定されます。
ビル・ラッセル
- 身長:208cm
- ポジション:センター
世界最高峰のバスケットボールリーグであるNBAにおいて、13年の現役生活で11度(うち8連覇)の優勝を果たした伝説中の伝説の巨人。大学時代は55連勝を記録した優勝請負人です。
最大の武器は当時のセンターとしては似つかわしくないフットワークによるヘルプディフェンスとブロックショット。リバウンドも圧倒的に支配しており、NBAシーズンでは歴代2位の1試合51リバウンド、NBAファイナル史上最多の1試合40リバウンドを記録。
史上初となるシーズン平均20リバウンドを達成した圧倒的なディフェンシブなセンタープレイヤーです。
後述するウィルト・チェンバレンとの激しいライバル関係を築き、時代を確実に「バスケはセンターのもの」とした人物です。
コーチとしてもNBA制覇を果たしており、その影響力から、NBAの全チームにおいて彼が着用していた背番号「6」が永久欠番になることが発表されました。(2022年)
ウィルト・チェンバレン
- 身長:216cm
- ポジション:センター
先述したビルラッセルと共に、1950年代後半〜1960年代のNBAおよびバスケットボール界の中心にいた伝説的な選手です。
当時のバスケットボール界において、216cm、125kgの体躯は非常に大きく、さらに人並外れた身体能力においてコートを縦横無尽に駆け巡り、まさに「ビッグマンが試合を支配」していたことがよくわかる選手です。
ライバルとなっていたビル・ラッセルとは対照的に攻撃面で圧倒的な才能を持っており、数々の今後破られることのないであろう記録を持っている選手です。
1970〜80年代:ビッグマンが支配まではできなくなった時代
ウィルト・チェンバレンとビル・ラッセルの覇権の時代が終わったところから、リーグや試合をビッグマンが支配・制圧するというイメージから各ポジションのスーパースター(マジックジョンソンやラリーバード)が誕生し、それによってビッグマンこそが正義というイメージが変わっていく時代に突入します。
しかし、それでも身長が高いだけでも有利という状況は変わらず、各チームでビッグマンが活躍し、各チームのスカウトがビッグマンを発掘しだすという時代になります。
技術はそこまで高くないけれども圧倒的に大きい選手や、高さに加えて技術がある選手などが複数出てくる流れとなりました。
カリーム・アブドゥル・ジャバー
- 身長:218cm
- ポジション:センター
ルー・アルシンダーという名前から宗教上の理由で改名し、長期間NBAの史上最多得点記録者として君臨しているセンターです。比較的細長い体型をしており、「高さ」を武器にしていた選手です。
218cmと長い手足から繰り出される「リングよりも高い位置からのシュート」であるスカイフックを武器に長期間得点を重ね、NBAで最も得点をした記録を保持している伝説の選手です。(2023年1月現在)
また、大学時代にはNCAAがダンクを禁止するという自体にもなったほど影響力を誇った選手でもあります。彼の引退後は、完全に「試合を支配できるセンター」という存在が少なくなり、ビッグマン全盛期の最期の象徴的プレイヤーともいえます。
モーゼス・マローン
- 身長:208cm
- ポジション:センター
屈強な体躯のセンタープレイヤーで、リバウンドが非常に強かったプレイヤーです。試合を1人で完結できるような選手ではありませんでしたが、所属した弱小チームがファイナルまで進むなど、当時のバスケットボール界では止められる選手ではありませんでした。
非常に価値のあると考えられていた選手であり、たくさんのチームを渡り歩きながら活躍しました。
ゴール下の戦場をパワーとハッスルで制圧しており、優勝も果たしています。
岡山恭崇
- 身長:230cm
- ポジション:センター
「チビ」と呼ばれた230cmの身長を誇る、日本バスケットボール選手の歴史上最も高い身長の選手です。
大学に入るまでバスケをやったことすらなかった岡山選手ですが、その圧倒的な身長から大学時代にバスケットボール部の監督に誘われてバスケを始めました。
柔道をしていたことによるパワーと、徹底的な走り込み、圧倒的な高さによって大学、日本リーグでリバウンド王となり、日本人で初めてNBAのチームにドラフトされることになりました。
バスケ歴が浅かったことと、先端巨大症の影響などによって、テクニック・身体能力面で劣ってしまう点もあり、世界のバスケ界で活躍することは叶いませんでしたが、日本のバスケ界のインサイドを支配していたことは事実でした。
マヌート・ボル
- 身長:231cm
- ポジション:センター
NBAの歴代最高身長の記録を持っている選手で、ブロックショットを得意としていました。
史上唯一通算得点よりも通算ブロック数の方が多いという、「高さ」を存分に活かした選手でした。
非常に「細長」く、231cmの身長でありながら体重が90kg前後しかなかったと言われています。(※渡邊雄太選手は206cmで98kg)
また、実は本当の年齢がわからず、NBAでプレーしていた際はすでに40歳を超えていたのでは?という逸話も残されている選手です。
1990〜00年代:多様なタイプのビッグマンの誕生
1990年に突入すると、時代はマイケル・ジョーダン全盛期となります。しかし、その陰で神に挑む形で様々なタイプのビッグマンが登場します。
また、バルセロナオリンピックやNBAがバスケットボールの普及活動を世界各地でし始める影響によって、世界各地から多種多様なビッグマンが登場し始める時代となります。
シャキール・オニール
- 身長:216cm
- ポジション:センター
216cmに135kgという、巨人が集まるNBAの中でも一際大きい身体と圧倒的なパワーで文字通りゴール下を制圧したのがシャックことシャキール・オニールです。
フリースローが苦手だったため、テクニックに劣るという印象が持たれていますが、実際には非常に高い身体能力とクイックネス、1on1で外角からドライブできるほどのハンドリングスキルを持っているなど、全く止められない選手でもありました。
史上初となる平均20得点10リバウンドを13年連続で記録するという「支配」度合いを示し、「高さとパワー」でバスケットボールの世界を破壊した選手です。
アキーム・オラジュワン
- 身長:213cm
- ポジション:センター
7フッターの身長に加え、クイックネスとフットワークの能力が非常に高く、ドリームシェイクと呼ばれるフットワークテクニックでインサイドを圧倒した選手です。
当時のセンタープレイヤーでは考えられないほどの機敏さを見せられる選手であったため、引退後も彼のテクニックを学びに多くの選手が彼の元を訪れるという現象が起こっています。
ディケンべ・ムトンボ
- 身長:218cm
- ポジション:センター
身長に加え、長い手足とディフェンスへの対応能力が高いことから、「ブロックショット」を得意としたディフェンシブなビッグマンです。
ブロックショットを決めた後に人差し指を振る「finger wag」はアメリカ全土でブームになる程の影響力を持ちました。
しかし、実は大学までまともにバスケットボールをやったことがなく、入学したジョージタウン大学にも「医師になるため」に入学するという驚きの過去があります。
バスケ歴の浅さからオフェンスでの能力は特筆すべきものはありませんでしたが、ビッグマンとしての影響力をバスケットボール界に示した伝説的な選手といえます。
ティム・ダンカン
- 身長:211cm
- ポジション:パワーフォワード
パワーフォワードというポジションにおいて、圧倒的な実績を誇ることから、史上最高のパワーフォワードとも呼ばれている選手で、NCAAで史上初の「通算1,500得点1,000リバウンド400ブロック200アシスト以上」を達成したことでも知られています。
「Big Fundamental」と呼ばれる通り、地味に見える基礎的なプレーを中心にプレーを組み立てるためハイライト映像が少ない選手ではありますが、着実にプレイしミスが少ない選手でもあるため、チームを勝たせられる選手でもあります。
レギュラーシーズンおよびプレーオフ両方の通算ダブルダブル数が歴代1位であることや、オールNBAチーム選出数歴代1位、オールディフェンシブチーム選出数歴代1位など、「安定的に支配力があった」と呼べる数々の記録を残しています。
カール・マローン
- 身長:206cm
- ポジション:パワーフォワード
206cm117kgという恵まれた体格と、ジョン・ストックトンという恵まれた相棒と共に、わかっているのに止められない動きで、「郵便配達人(メイルマン)」のニックネームを与えられ、郵便ポストに届けるようにNBA歴代3位に到達するまで(2023年1月現在)の得点を重ね続けた選手です。
相棒のジョン・ストックトンとともに、現在のバスケットボールの基本の攻撃戦略であるピックアンドロールを駆使し、オーソドックスな動きでありながらも止められないレベルまで昇華させました。
ファウルをもらうことも多く、フリースローの成功本数・試投数で歴代1位という記録も持っています。
また、ボディビルダーのような圧倒的な体躯が表すように、非常に屈強であり、引退する最後の1年以外の18年間での欠場数はわずかに10という「鉄人」のような記録も持っています。
ダーク・ノビツキー
- 身長:213cm
- ポジション:パワーフォワード
7フッターの身長から繰り出される片足フェイダウェイは誰にも止められず、2023年1月現在、最も成功した国際プレイヤーとも評価されている選手です。
それまでのビッグマンのシュートレンジは狭く、テクニックやパワーでゴールの真下まで接近して得点することが一般的だったのに対し、ノビツキーはガード並みのシュートレンジとシュート成功率を誇っており、「デカいのに3ポイントを頻繁に放つ」というストレッチビッグの象徴のような選手です。
また、ヨーロッパから多くの大型プレイヤーが登場するきっかけにもなった選手で、「パワーはないが、デカくて上手い」という選手たちのお手本であり続けました。
彼の登場によって「大きくても3ポイントシュートを放てることは非常に重要なスキルセットである」という認識が広がり、後の3ポイント全盛期や様々なスキルを持ったビッグマンの登場に繋がっていきます。
2010年代〜:国際化とプレイエリアの拡大・タイプの複雑化
2010年代からは、1990年代頃からNBAを中心に世界のバスケットボールの発展のために、幼少期の優秀な選手の発掘と育成をしてきた活動が身を結び始め、ヨーロッパを中心とした非常にユニークなビッグマンたちが登場し始めます。
2010年代には「デカい = センター」という認識ではなく、デカいのにガードをしたり、センターでもプレイメイクをするような選手も出てきており「ビッグマン」に対する認識が変わった時代に突入しています。
アンソニー・デイビス
- 身長:208cm
- ポジション:パワーフォワード(センター)
高校までガードのポジションとしてプレイしていたにも関わらず、高校で一気に25cm身長が伸びて200cmを超えたため、ガードのスキルセットを持ったインサイドプレイヤーとなった選手です。
ウイングスパンが227cmあるとされており、非常に長い手を活かしてブロック王や最優秀守備選手賞も獲得しているビッグマンです。
オフェンスでもディフェンスでも活躍できることに加え、ガード並みのハンドリングとシュートレンジ、フットワークを有していることから、ほぼ全てのプレイを行うことのできるオールラウンダーといえます。
ルディ・ゴベア
- 身長:216cm
- ポジション:センター
ウイングスパン235cmという圧倒的な守備範囲から繰り出されるブロックショットとリバウンドを武器に、ペイントエリアを制圧するタイプのビッグマンです。
攻撃能力はそれほど高くありませんが、恵まれた体格を十分に活かしたディフェンス能力が特徴であり、ブロック王やリバウンド王、最優秀守備選手に輝く選手です。
ヤニス・アデトクンボ
- 身長:211cm
- ポジション:パワーフォワード
2023年現在のNBAにおいて、最も支配的な影響力を持っているような選手で、シーズン通算スタッツの主要5部門全てでリーグトップ20に入った史上初の選手です。
ビッグマンには似つかわしくないスピードとドライブ能力があり、ポストからの得点ではなくスリーポイントライン外から突進とも言えるようなドライブでダンクまで持ち込む能力の高い選手です。
また、MIP、シーズンMVP、ファイナルMVP、オールスターMVP、最優秀守備選手の全ての賞を獲得した史上唯一の選手でもあり、「理不尽」とも表現される能力の高さと試合への影響力を誇るビッグマンで、ビッグマンの認識を大きく変えたといえます。
ニコラ・ヨキッチ
- 身長:211cm
- ポジション:センター
センターというビッグマンのポジションの価値や役割を大きく変える転換点となる選手です。
一般的なセンターはボールを運ぶことは少なく、プレイメイクや司令塔的な役割を果たすことはありませんが、ニコラ・ヨキッチはボールも運び、チームに指示を出し、ガード顔負けのパスを出してチームのオフェンスを牽引する存在です。
もちろん、自らの得点やリバウンドも簡単にとってくるため、ビッグマンとしての自身の大きな体も活かしてプレイしています。しかし、身体能力があまり高くなく、対人ディフェンス面での弱点があることでも知られています。
「デカいのに上手い」の象徴にもなっている選手で、今後の万能型ビッグマンのお手本となっていくでしょう。
ベン・シモンズ
- 身長:208cm
- ポジション:ポイントガード
208cmという「ビッグマン」と呼ばれる身長がありながら、ポイントガードをこなすという、20年ほど前のバスケットボール界の常識では考えられなかったプレイスタイルの選手です。
3ポイントをほとんど放つことがないプレイスタイルでありながら、非常に高い身体能力とプレイメイク能力によってコートを支配することのできる選手であり、フットワークと身体の大きさから全てのポジションの選手を守ることのできるエリートディフェンダーでもあります。
チェット・ホルムグレン
- 身長:216cm
- ポジション:パワーフォワード
シーズン開幕前の怪我によって2023年1月現在、まだプロとしてのプレイはしていませんが、216cmの身長には似つかわしくないクイックネスとボールハンドリング、スピードを有している選手で、3ポイントラインよりも後ろからのガード相手の1on1も問題なくこなすという万能性を誇るビッグマンです。
90kg前後という細さによるパワー不足が懸念されていますが、ヘルプディフェンス能力や229cmのウイングスパンも持っているため、筋肉をつけてパワーさえ確保することができれば、確実に「止められない」選手になることでしょう。
ビクター・ウェンバンヤマ
- 身長:223cm
- ポジション:パワーフォワード
身長223cm、ウイングスパン240cmとも言われる非常に恵まれた「高さ」と「長さ」を持っているビッグマンで、今後確実に世界のバスケットボール界を背負う存在と言えるプレイヤーです。
223cmの身長がありながら、ガード顔負けのハンドリングスキルとシュート能力があり、柔らかいシュートタッチでの3ポイントも得意としています。ドライブも得意であり、スピードに乗った高さのあるドライブは止められることは少ないです。
チェットホルムグレンと同様にまだ体重が軽いため、怪我のリスクやパワー負けすることもあると見られていますが、高さとスキルから、パワーがつけばほぼ確実に止められない選手といえます。
まとめ
このページで紹介したように、ビッグマンの明確な定義はありませんが、ビッグマンに求められるスキルや役割は時代によって変わってきました。
特に、現代のバスケットボールではビッグマンでもガードの選手と同じようなプレイを求められたり、外角からのシュートを求められることも多いことがわかるでしょう。
しかし、圧倒的な身長はやはりバスケにおける武器であり、今後も彼らがバスケットボールの中心に居続けることは変わらないでしょう。
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